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青山学院大学箱根駅伝優勝に想う母校への「愛着」と「誇り」と「問い」

 全国に門戸を広げたとされる第100回東京箱根間往復大学駅伝競走(通称:箱根駅伝、神奈川箱根町~東京大手町 往復10区間109.6㎞)は、10月の「出雲全日本大学選抜駅伝競走」、11月の「秩父宮賜杯全日本大学駅伝対校選手権大会」を制し、史上初の2年連続の『駅伝三冠』に挑んだ王者、駒澤大に、青山学院大学が6分35秒の大差をつけて圧勝した。青山学院大学自身が記録していた最高記録を往路と総合で破り、大会新記録となる10時間41分25秒で2年ぶり7度目の総合優勝を往路復路と合わせた完全優勝で決めた。

青山学院大学の箱根の歩み

 青山学院大学箱根駅伝への初出場は、1943年(昭和18年)に行われた第22回(当時は、紀元2,603年 靖国神社箱根神社間往復関東学徒鍛錬継走大会というのが正式名称)である。原晋監督就任以降、2009年(平成21年)第85回の33年振りの出場を皮切りに快進撃が始まり、出場回数29回、16回連続出場、15回連続シード権獲得、この10年間で4連覇を含む7度の優勝という圧倒的な存在感を醸している。

  • 2009年(平成21年)第85回:22位
  • 2010年(平成22年)第86回:8位
  • 2011年(平成23年)第87回:9位
  • 2012年(平成24年)第88回:5位
  • 2013年(平成25年)第89回:8位
  • 2014年(平成26年)第90回:5位
  • 2015年(平成27年)第91回:初優勝
  • 2016年(平成28年)第92回:優勝、連覇
  • 2017年(平成29年)第93回:優勝、三連覇
  • 2018年(平成30年)第94回:優勝、四連覇
  • 2019年(平成31年)第95回:2位
  • 2020年(令和2年)第96回:優勝
  • 2021年(令和3年)第97回:4位
  • 2022年(令和4年)第98回:優勝
  • 2023年(令和5年)第99回:3位
  • 2024年(令和6年)第100回:優勝

第100回の記念大会を優勝で飾る(2024年:令和6年)

”原メソッド”の確立

 『負けてたまるか大作戦』で「学院創立150周年、監督就任20年、第100回大会」というタイミングでの優勝。筆者が感じた”原メソッド”の片鱗について以下、ピックアップしたい。

周囲への配慮と感謝

 優勝会見の原監督の第一声は、元日に発生した能登半島地震への配慮だった。「1月1日、能登震災において、本来であればお正月は家族団らんで、おせちやお雑煮を食べながら2、3日箱根駅伝をご覧いただける方、数多くいらっしゃったんだと思う。しかし、あのような災害の中で今でも苦しまれている方がいらっしゃる。そんな中での箱根駅伝、開催させていただいたことに対して、まずもってお礼を申し上げたい。ありがとうございました」と話している。(1月3日:スポニチアネックス記事参照)

データに裏付けられた一貫した方針

 12月初旬に一部の主力メンバーがインフルエンザに感染するなど、苦しいチーム状況だったが、7年前から通っている早稲田大学の大学院における”原メソッド”なるものの体系化とデータ化が、アクシデントがあってもトレーニングを柔軟に対応出来る等の功を奏しているという。「チーム全体として、春先は5,000mを強化する。チーム平均タイムは44人で14分00秒。こんなチームは世界中にない。ギネス級だと思う」その上で5,000mのベースづくりがさらなる強化につながると力説し、「夏の走り込み、秋の10,000m、そして箱根へという一連の流れ。これが必勝プランで、(箱根駅伝の強化に)合っているのだと思う」と言い切っている。(1月3日:東スポWEB記事参照)

力点への照準合わせ

 駒沢大は、今季の大学三大駅伝出雲駅伝全日本大学駅伝を、1区から先頭を譲らない「完全優勝」で制しており、実際、箱根でも往路の1区も1位で通過。結果的に勝負の分かれ目となった2区と3区は、人選もさることながら、2人が履いたシューズはアディダス社の「ADIZERO ADIOSPRO EVO1」という9月のベルリン女子マラソン世界新記録を樹立した際に履かれていた新世代厚底シューズ。耐久性はフルマラソン1回分という勝負靴をこの2区間だけ投入し、あらゆる面から駒大崩しを狙っていたということだろう。(1月3日:デイリースポーツ記事参照)

人心掌握とコミュニケーション

 12月28日の全体ミーティングで、「本音8割、2割はほっとさせる」という意味合いも込めて、学生たちに「準優勝で良いよ」と話したという。「実力的にも駒澤大学が1枚どころじゃないです、2枚も3枚も上で…。これはね、8割本音。勝てない。その中でキャプテン中心に優勝優勝優勝!ってえらい肩に力が入ってるからまぁまぁちょっと心を落ち着かせて、ゆとりを持ってその先に箱根駅伝の優勝があるから。まずは自分達のことをしっかりとやっていこう思いがありましたね」と明かしている。その言葉に選手達は奮起し、改めて目標を見据え、頂点に立つことになっている。(1月3日:日刊スポーツ記事、1月4日:スポニチアネックス記事参照)

惜しみない賞賛

 2015年(平成27年)の初優勝以降、原監督はテレビ出演や講演などの依頼が殺到していくこととなるが、その収入で「優勝記念ハワイ卒業旅行」を優勝した年の4年生へプレゼントしているという。(1月4日:スポーツ報知記事参照)

母校への愛着と誇りと問い

 優勝後にチームが「青山学院大学カレッジソング」を歌っているのが聞こえたりすれば、自身の学生時代にも何度も歌っただけに色々な感情が交差してくるし、ここ10年間では毎年のように新年早々いい気分でスタートが切れるのは全くもってありがたいことであるが、母校への愛着ということを考えた時、思い起こされるテーマがあった。

 昨年の夏の甲子園で慶応高校が優勝した際に、そのOBを含めた大声援が一部の物議を醸していたことがあったが、筆者はああいった雰囲気を醸成出来る、一つのことを大勢で愛でられる一体感、そういったものを羨ましく思っている。

 いい味噌󠄀や醤油をつくる昔ながらの蔵元には、「家付き酵母」が棲み着いているという。長い年月をかけてそこに棲み着き、味噌󠄀や醤油に、そこでしか再現できない独特の「風味」を加える。同じ材料、同じ製法で造っても、他の蔵元では同じ味は出せないのだそうだ。
 学校にも似たところがある。生徒は毎年入れ替わるし、当然一人ひとり違うのだが、それでも同じ学校の生徒には共通する「らしさ」が宿る。
 この「らしさ」を身にまとうことこそ、わざわざ高い学費を払ってまで私学(私立学校)に通う意味である。
『なぜ中学受験するのか?』著者:おおたとしまさ、発行所:㈱光文社、初版:2021年11月30日

青山キャンパス正門を臨む銀杏並木(2019年訪問)

 麻布高校出身のこの本の著者は、麻布に対する誇りと問いを纏って生きているのだと思うが、言い得て妙だと思え、規模やその凝縮度に鑑みると主に高校がそれに該当すると思うが、大学にも似たようなことが言えるのかもしれない。

 学校とは、集団幻想を演じる空間である。そう確信した。
 本書を読めば明らかなように、言葉や絵にできる麻布らしさなんてものはない。しかしながら麻布らしさという幻想なら確実にある。麻布の空気を吸った者たちが、それぞれ勝手に自分の中に「こうあるべし」という姿を構築し、あたかもみんなが同じものを共有しているかのような幻想を互いに抱きながら、自分の役割を思い思いに演じている。全体としてその様子を見ていると、あたかもそこに麻布らしさなるものが実在しているかのように見えてくる。まるでパントマイムである。
 これまでの取材経験を思い起こしてみれば、私学にせよ公立名門校にせよ、愛され続ける学校はこの点においてみな同じだ。
 この、実際にはありもしないらしさがそのまま絶対的な誇りになる。人生に迷ったとき、「〇〇らしくあろう」と考えると、まるでそれが呪文のように勇気を与えてくれる。で、そこで改めて考える。「ところで〇〇らしさって何だっけ?」と。卒業生一人一人にとって、あるいは同じひとでも人生の局面局面において、その意味は変わる。
 つまりらしさは、誇りであり同時に問いである。卒業生たちは絶対的な誇りを胸に抱きながら同時に、いつまでも答えがわからない問いを抱え続ける。
 つまるところ、ハビトゥスとは問いであり、学校は答えを見つけに行くところではなく、問いを授かるところなのだ。
『なぜ中学受験するのか?』著者:おおたとしまさ、発行所:㈱光文社、初版:2021年11月30日

 高校も合わせて、学歴云々という次元を超えて、愛着と誇りと問いを抱えて生きていきたいと改めて思わせてくれた。